浸水したかどうかで
価格差は瞬間的に大きくなる

 今回の件で、インターネット上では「二子玉川や武蔵小杉の資産価値が暴落するのではないか」という憶測が飛び交った。
 
 もしそうだとすれば、デベロッパーとしては開発戦略の変更を余儀なくされるだろう。

「物件開発では事前にさまざまな想定をしている。今回の件が当社の開発戦略に影響を与えることはない」

 二子玉川と武蔵小杉の両方の開発に関わっている、東急不動産の広報担当者はそう話す。

 浸水の危険性を示す「ハザードマップ」は一般公開されている。不動産会社は開発する際、その点はある程度織り込み済みという訳だ。

 また「不動産の公的な評価ではハザードマップや土砂災害警戒区域などは当然踏まえている」と不動産鑑定士の武藤悠史氏は話す。 

 武藤氏によれば、国税庁の路線価を見ても、今回氾濫した土地の方が価格は低く評価されていたという。

 とはいえ、住宅被害は命に直結する。そのため、浸水エリアとそうでなかったエリアの価格差は瞬間的に大きくなると想定される。これからずっと住もうとする人が、浸水エリアを今あえて選ぶことは少ないとみられるからだ。

 さらに今後は、アクセスの良さや人気度だけではなく、天災による被害を受けやすいかどうかが、市場間取引におけるリセールバリュー(再販価値)や金融機関の担保評価にも影響を及ぼしてくるだろう。

 ただし「数十年に一度」クラスの災害で起こった出来事は、復興に伴い人々の記憶から少しずつ薄れる。それにつれて、大きく下げた地価も次第に戻していくというのが、不動産鑑定の世界では一般的な見方のようだ。

 東日本大震災でもタワーマンションは停電したが、それでも価格が暴落することはなかった。

「二子玉川でいえば、今回浸水しなかったエリアはさらに人気が高まる。浸水エリアは数年間、地価を下げ、次第に下落率は薄れていく」と武藤氏は見ている。